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毫も世界に於ける暗黑の方面を指摘することをも避けざりき。彼れは其の名著『カンディッド』("Candide ou sur l'Optimisme" 千七百五十七年出版)に於いて其の主人公をして(當時リスボン市の激烈なる地震の爲めに慘狀を極めたることを其の意中に含めて)若しかゝるをだに最も善美なる世界とせば其の他の世界が造られたらば如何にかあらむと曰はしめたり。此の語は是れライブニッツの樂天論に向かひての大打擊と見らるべきものなり。詩人ポープは其の詩に於いて神が此の世に行ふことを凡べて是なりとすべき所以を歌うて吾人は神が吾人の如き一の渺然たるものの爲めに其の設けたる永恒の法則を易へむことを求むるを得ずと云ひしが、ヺルヲールは曰はく、されど此の渺然たる吾人も猶ほ旻天に號泣し且つ何ゆゑに此の永恒の法則が各個人の爲めに造られざりしかを了解せむことを求むる權利ありと。盖しヺルテールは善なる神の存在を信じ居たり、されど世には災害苦痛の多きことの故を以て其の謂はゆる神を以て全能なるものと見做さずして常に其の所爲に對し障碍を呈する物質ありと考へたり。即ちヺルテールは物質及び神の二つを以て世界の成り立ちを考へむとしたるものにして而して神と