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麥わら
麥わらの細きくだには
少年の日の夢がこもれり
風邪ぎみにて
咽頭をいためし今日このごろ
たはぶれにふといひいで
麥わらにて牛乳󠄁をすゝれば
ゆくりなくよみがへり來るなり
かの少年の日󠄂のおもひ
月󠄁の夜ごとをラツパ吹きならふと
ひとり麥畑にかくれ
いはれなき
いきづけるとき
熟れし穗は眞鍮に觸れ觸れ
かそかに鳴りしか
あはれ いつの日󠄂 かの夢のうせける
麥わらの細きくだに
かくれゐし少年の日の傷みよ
わが咽頭は牛乳󠄁とともに
飮みあへず くふくふと
せきあぐるなり
少年
春淡きたそがれどき
少年は 線切れし電球を握りて
麥畑の畔󠄁をまはり
交󠄁換所󠄁にゆくなり
みちなかに耳元にてふりて見れば
かそかにさゝやく金屬の音󠄁ならずや
空󠄁に殘るうすらあかりに
かざしては見つれ
纖細なるフイラメントはもはや見わかず
ひたすら まもる電球の傍に
ひらひらと光そめしは
まだ若き春の宵󠄁星
少年はふと 寂しくなり
掌ぬちに電球の丸きを握れば
乳󠄁白硝󠄁子のけうときぬくみに
春はそれと知らるるなりき