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裏庭


裏庭の畫の光のなかに

きんかんの木とみかんの木があつた。

蝶がひとつ遊󠄁んでゐた。

ひるはしづかだつた。

兄さんは緣側から

だまつてながめてゐた。

ながいあひだながめてゐた。

「きんかんの木があつて

みかんの木があつて

蝶が舞つてゐる」

と兄さんはつぶやいた、

「ただそれだけだ。

だが ここに僕たちの

平󠄁和と幸はあるんだ。

僕の親父󠄁 親父󠄁の親父󠄁 そのまた親父󠄁 

――とほい先からの

平󠄁和と幸はみなあるんだ。


ここをきやつらに

ふみにじられてなるもんか」


あくる日兄さんは出征した。


マライ半󠄁島を

いきもつかずに兄さんは走つた。


そしてブキ・テマでたふれた。


僕は緣側に立つて見てゐる

きんかんの木とみかんの木を

春の光の中に。ああ

兄さんのあとをつぐもの 僕だ。