Page:NDL1142084 南支南洋研究調査報告書 第4輯 part1.pdf/6

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本册子の完成のために、各方面から種々なる御便宜の提供をうけた。特に、在廣州市甲賀三郞氏の御厚情と、本校 敎授各位がお示し下さつた御厚誼に對して、衷心からの謝意を表する次第である。

昭和十七年二月大詔奉戴日


【一】支那語中に於ける廣東語の地位

支那に行はれる言語は、それが包擁する民族の多種多樣なる如く、實に夥しい種類を數へる。大雜把に見ても、漢 族の用ひる漢語、蒙古族の操る蒙古語、廿肅一帶に住むトルチス人の使用する土耳古語、南支那の苗族の苗語其他猓・玀・㺗・狫の諸言語等實に枚擧に遑ない位である。この中我々が通常「支那語」なる名稱の下に包括してゐるもの は、廣義の場合は漢族の操る言語であり、狹義の場合は、現在中國の標準語となつてゐる「北京語」を指すのである。 故に、廣義の支那語は、支那全土の漢民族間に行はれてゐる各種の方言を認容して居るのであるが、この方言に關す る硏究は、今日迄、極めて少數の人に依つて、僅かに基礎的なものが行はれたに過ぎない。卽ち、歐米より渡來した 宣敎師は、その布敎上の必要より、主として南方の方言について若干の硏究をなし、支那の學者は、國語統一或は音 韻硏究の一助として、中原方言の硏究を行つたのみである。故に、西洋人の硏究は、北方の方言を忽諸にした嫌があ り、支那の學者の硏究は、南方方言を疎にした憾がある。從つて今日迄綜合的に支那方言を硏究大成したるものは、 見當らないのであるが、とまれ、玆に現在發表されてゐる支那方言分布說の一斑を紹介しやう。

  1. P. G. von Mallendoftママの分類〔Chinese mission year book P.706〕
    1. 官話
    2. 蘇州語
    3. 上海語
    4. 寧波語
    5. 福州語
    6. 厦門語
    7. 汕頭語
    8. 客家語
    9. 廣東語
    10. 南海語ママ

    此の中、蘇州・上海・寧波の各方言、廣東・汕頭・南海ママの各方言は夫々類似せる點を多くもつてゐるとなし、又官 話は、之を北部・西部・中部の三帶に分けられ、北部官語は、滿洲・河北・山西・陝西・甘肅・河南・山東の各省、西