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  知りながら  いのちあらばと  たのめこし  ことばかりこそ

  しらなみの  たちもよりこば  問はまほしけれ」

と書きつけて二階の中に置きたり。例のほどにものしたれどそなたにも出でずなどあれば、居わづらひてこの文ばかりをとりて歸りにけり。さてかれよりかくぞある、

 「折りそめし  ときのもみぢの  さだめなく  うつろふいろは

  さのみに〈にイこそ〉  逢ふあきごとに  常ならぬ〈めイ〉  なげきのしたの

  木の葉には  いどゞいひ置く  はつしもに  ふかきいろにや

  なりにけむ  おもふおもひの  絕えもせず  いつしかまつの

  みどり子を  行きては見むと  するがなる  母子のうらなみ

  立ちよれど  ふじのやまべの  けぶりには  ふすぶることの

  絕えもせず  あまぐもとのみ  たなびけば  絕えぬ我が身は

  しらいとの  まひくるほどを  おもはじと  あまたのひとの

  せにすれば  身ははしたかの  すゞろにて  なつくるやどの

  なければぞ  ふる〈す脫歟〉にかへる  まにまには  飛びくれ〈るカ〉事の

  ありしかば  ひとりふすまの  とこにして  寢ざめのつきの

  眞木の戶に  ひかりのこさず  もりてくる  かげだに見えず

  ありしより  うとむこゝろぞ  つきそめし  たれかよづまと