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Page:Kokubun taikan 09 part1.djvu/308

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 「わたつみの沖にこがるゝ物見ればあまの釣してかへるなりけり」

と奏しけるこそをかしけれ。かへるの飛び入りてこがるゝなりけり。

みあれのせんじ、五寸ばかりなる殿上わらはのいとをかしげなるをつくりて、みづらゆひ、さうぞくなどうるはしくして名かきて奉らせたりけるに、「ともあきらのおほきみ」と書きたりけるをこそいみじうせさせ給ひけれ。

〈中宮定子〉に始めて參りたるころ物の耻かしきこと數知らず。淚も落ちぬべければ、よるよる參りて三尺の御几帳のうしろに侍ふに、繪など取り出でゝ見せさせ給ふだに手もえさし出づまじうわりなし。「これはとありかれはかゝり」などのたまはするに、たかつきにまゐりたる大とのあぶらなれば、髮のすぢなども中々晝よりはけせうに見えてまばゆけれど、念じて見などす。いとつめたきころなればさし出ださせ給へる御手のわづかに見ゆるが、いみじうにほひたる薄紅梅なるは限なくめでたしと、見知らぬさとび心ちには、いかゞはかゝる人こそ世におはしましけれと、驚かるゝまでぞまもりまゐらする。曉にはとくなど急がるゝ。「葛城の神も暫し」など仰せらるゝを、いかですぢかひても御覽ぜむとてふしたれば、御格子もまゐらず。「女官參りてこれはなたせ給へ」といふを、女房きてはなつを「待て」など仰せらるれば笑ひてかへりぬ。物など問はせ給ひのたまはするに「久しうなりぬればおりまほしうなりぬらむ。さははや」とて「よさりはとく」と仰せらるゝ。ゐざり歸るや遲きとあけちらしたるに、雪いとをかし。「今日は晝つかた參れ。雪にくもりてあらはにもあるまじ」など度々召せば、