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「めでたくもかゝれたるかな。をかしうしたり」など譽めさせ給ひて御文はとらせたまひつ。「返り事はいかゞすべからむ。このへいだんもてくるには物などやとらすらむ。知りたる人もがな」といふを聞しめして「これなかゞ聲しつる。呼びてとへ」とのたまはすればはしに出でゝ「左大辨〈惟仲〉にもの聞えむ」とさぶらひしていはすれば、いとよくうるはしうてきたり。「あらず わたくし事なり。もしこの辨少納言などのもとにかゝる物もてきたる下部などにはすることやある」と問へば「さる事も侍らず。唯とゞめてくひ侍る。何しにとはせ給ふ。もし上官のうちにてえさせ給へるか」といへば「いかゞは」といらふ。唯返しをいみじう赤きうすえふに「みづからもてまうでこぬ下部はいとれいだうなりとなむ見ゆる」とてめでたき紅梅につけて奉るを、すなはちおはしまして「下部さぶらふ」とのたまへば、出でたるに、「さやうのものぞ、歌よみしておこせ給へると思ひつるに、びゞしくもいひたりつるかな。女少し我はと思ひたるは歌詠みがましくぞある。さらぬこそ語らひよけれ。まろなどにさる事いはむ人はかへりてむじんならむかし」とのたまふ。のりみつ、なりやすなど笑ひて止みにし事を、殿の前に人々いと多かりけるに、語り申し給ひければ「いとよく言ひたる」となむのたまはせしと人の語りし。これこそ見苦しきわれぼめどもなりかし。などてつかさえはじめたる六位しやくに、しきの御ざうしのたつみの隅のついぢの板をせしぞ。更に西東をもせよかし。又五位もせよかし」などいふことを言ひ出でゝ、あぢきなき事どもをきぬなどにすゞろなる名どもをつけゝむいとあやし。「きぬの名にほそながをばさもいひつべし。なぞかざみはし