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一人のおほんかしづきにとかく繕ひ立てゝ、めやすき程にてすぐしたまへるを、闇にくれてふし沈みたまへる程に草も高くなり野分にいとゞ荒れたる心地して月かげばかりぞ八重葎にも障らずさし入りたる。南おもてにおろして、母君もとみにえものものたまはず。「今までとまり侍るがいと憂きを、かゝる御使の蓬生のつゆ分け入りたまふにつけても耻しうなむ」とて實にえ堪ふまじく泣い給ふ。「參りてはいとゞ心苦しう心ぎもゝ盡くるやうになむと內侍のすけの奏し給ひしを、もの思ひたまへ知らぬ心地にも實にこそいと忍び難う侍りけれ」とてやゝためらひて御事傳へ聞ゆ。「暫しは夢かとのみたどられしを、やうやう思ひ靜まるにしもさむべき方なく堪へ難きはいかにすべきわざにかとも問ひ合すべき人だになきを、忍びては參り給ひなむや、若宮のいとおぼつかなく露けき中にすぐしたまふも心苦しう覺さるゝを、疾く參り給へなど、はかばかしうものたまはせやらず、むせかへらせたまひつゝ、かつは人も心弱く見奉るらむと覺しつゝまぬにしもあらぬ御氣色の心苦しさに、承はりも果てぬやうにてなむまかで侍りぬる」とて御文奉る。「目も見え侍らぬに、かく畏き仰事を光にてなむ」とて見たまふ。「程經ばすこし打ち紛るゝこともやと待ちすぐす月日に添へていと忍び難きはわりなきわざになむ。いはけなき人も如何にと思ひやりつゝ、諸共にはぐゝまぬおぼつかなさを今は猶昔の形見になずらへてものしたまへ」など、こまやかに書かせたまへり。
「宮城野の露ふきむすぶ風の音に小萩がもとを思ひこそやれ」とあれど、え見たまひはて