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む。かの故鄕は女房などのかなしびに堪へず泣き惑ひ侍らむに、隣しげく咎むる里人多く侍らむに、おのづから聞えはべらむを、山寺こそ猶かやうの事おのづから行きまじり物紛るゝこと侍らめと思ひまはして、昔見給へし女房の尼にて侍るひんがし山のへんに移し奉らむ。惟光が父の朝臣の乳母に侍りし者のみづはぐみて住み侍るなり。あたりは人繁きやうに侍れどいとかごかに侍る」と聞えて明け離るゝ程のまぎれに御車寄す。この人をえ抱き給ふまじければうはむしろに押しくゝみて惟光載せ奉る。いとさゝやかにてうとましげもなくらうたげなり。したゝかにしもえせねば、髮はこぼれ出でたるも、日暮れ惑ひてあさましう悲しと覺せば、なりはてむさまを見むとおぼせど、「はや御馬にて二條の院へおはしまさなむ。人騷しくなり侍らぬ程に」とて右近を添へて乘すれば、君に馬は奉りて我はかちよりくゝり引き上げなどして出で立つ。かつはいと怪しく、覺えぬおくりなれど、御氣色のいみじきを見奉れば身を捨てゝ行くに、君は物もおぼえ給はず。われかのさまにておはし着きたり。人々「いづこよりおはしますにか、惱ましげに見えさせ給ふ」などいへど、御帳の內に入り給ひて、胸を抑へて思ふにいといみじければ、などて乘り添ひて行かざりつらむ、生き返りたらむ時いかなる心地せむ、見捨てゝいき別れにけりとつらくや思はむとこゝろ惑ひの中にもおぼすに、御胸せきあぐる心地し給ふ。御ぐしも痛く身も熱き心地していと苦しく惑はれ給へば、かくはかなくて我もいたづらになりぬるなめりとおぼす。日高くなれど起き上りたまはねば、人々あやしがりて御粥などそゝのかし聞ゆれど、苦しくていと心細く覺さるゝに、