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とゞはひき返し御胸ふたがるべし。「忍びてさることをこそ聞きしか。なさけなき人の御心にもありけるかな。おとゞの口入れ給ひしにしふねかりき」とて引きたがへ給ふなるべし。心弱くなびきても人笑へならましことなど淚をうけての給へば、姬君いとはづかしきにもそこはかとなく淚のこぼるればはしたなくて背きたまへる、らうたげさかぎりなし。いかにせまし、猶や進み出でゝ氣色をとらましなどおぼし亂れて立ち給ひぬる名殘も、やがてはし近うながめ給ふ。あやしく心おくれても進み出づる淚かな、いかにおぼしつらむなど萬に思ひ居給へる程に御文あり。さすがにぞ見給ふ。こまやかにて、
「つれなさはうき世の常になり行くを忘れぬ人やひとにことなる」とあり。氣色ばかりもかすめぬつれなさよと、思ひ續け給ふはうけれど、
「かぎりとて忘れがたきを忘るゝもこや世になびく心なるらむ」とあるを、あやしとうちおかれず傾ぶきつゝ見居給へるとぞ。
藤裏葉
御いそぎの程にも宰相の中將はながめがちにてほれぼれしき心地するを、かつはあやしくわが心ながらしうねきぞかし、あながちにかう思ふことならば關守のうちもねぬべき氣色に思ひよわりたなるを聞きながら、同じくば人わろからぬさまに見はてむと念ずるも苦し