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Page:Kokubun taikan 01.pdf/538

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うちにのたまはむなむよからむ。何事も人めに憚りてえ參りこず聞えぬ事をなむなかなかいぶせくおぼしたる」など語り聞え給ふついでに、「いでや、をこがましきこともえぞ聞えさせぬや。いづかたにつけても哀をば御覽じ過ぐすべくやはありけると、いよいようらめしさもそひ侍るかな。まづは今夜などの御もてなしよ。北おもてだつかたに召し入れて君達こそめざましくもおぼしめさめ、下仕などやうの人々とだにうち語らはゞや。又かゝるやうはあらじかし。さまざまに珍しき世なりかし」とうち傾きつゝ恨み續けたるもをかしければ、かくなむときこゆ。「げに人ぎゝをうちつけなるやうにやと憚り侍るほどに、年頃のうもれいたさをもあきらめ侍らぬはいとなかなかなる事多くなむ」と唯すくよかに聞えなし給ふにまばゆくてよろづおしこめたり。

 「いもせ山深き道をば尋ねずてをだえの橋にふみまどひける、よ」とうらむるも人やりならず。

 「まどひける道をばしらで妹背山たどたどしくぞ誰もふみ見し。いづかたの故となむえおぼしわかざめりし。何事もわりなきまで大方の世を憚らせ給ふめれば、え聞えさせ給はぬになむ。おのづからかくのみも侍らじ」と聞ゆるもさることなれば「よし、長居し侍らむもすさまじき程なり。やうやうらうつもりてこそはかくごんをも」とて立ち給ふ。月隈なくさしあがりて空の氣色も艷なるに、いとあてやかに淸げなるかたちして御直衣のすがた好ましう華やかにていとをかし。「宰相の中將のけはひありさまにはえならび給はねど、これも