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上げたり。中將は斯く言ふにつけてもげにし誤りたる事と思へばまめやかにて物し給ふ。少將は「斯かる方にても、類ひなき御有樣をおろかにはよも覺さじ。御心を靜め給うてこそは堅き巖ほも沫雪になし給ふべき御氣色なれば、今よう思ひかなひ給ふ時もありなむ」とほゝゑみて言ひ居給へり。中將も「天の岩門さし籠り給ひなむや。目安く」とて立ち給ひぬれば、ほろほろと泣きて「この君達さへ皆すげ無うし給ふに唯御前の御心の哀におはしませばさぶらふなり」とていとかやすくいそしく、下臈わらはべなどの仕うまつりたへぬざふ役をも立ち走りやすく惑ひありきつゝ志を盡して宮仕しありきて「ないしのかみに己れを申しなし給へ」と責め聞ゆれば、あさましういかに思ひていふ事ならむとおぼすに物も言はれ給はず。おとゞこの望を聞き給ひていと華やかにうち笑ひ給ひて、女御の御方に參り給へる序に、「いづら、このあふみの君。こなたに」と召せば「を」といとけざやかに聞えて出で來たり。「いと仕へたる御けはひおほやけ人にてげにいかにあひたらむ。ないしのかみのことはなどかおのれに疾くは物せざりし」といとまめやかにてのたまへば、いと嬉しと思ひて「さも御氣色給はらま欲しう侍りしかどこの女御殿などおのづから傳へ聞えさせ給ひてむと賴みふくれてなむ侍ひつるを、なるべき人ものし給ふやうに聞き給ふれば夢にとみしたる心地し侍りてなむ胸に手を置きたるやうに侍る」と申し給ふ舌ぶりいと物爽かなり。笑み給ひぬべきを念じて「いとあやしう覺束なき御癖なりや。さも覺しの給はましかばまづ人のさきに奏してまし。おほきおとゞの御娘やんごとなくとも、こゝにせちに申さむ事は聞し召さぬ