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Page:Kokubun taikan 01.pdf/526

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行く物にこそありけれ。いとかく御手ふるひにけり」などうち返し見給ひて、「能くも玉くしげにまつはれたるかな。三十一字のなかにこともじは少なく、添へたる事の難きなり」と忍びて笑ひ給ふ。中宮より白き御裳唐ぎぬ御さうぞく御ぐし上げの具などいとになくて、例の壺どもに唐のたき物心ことに薰深く奉り給へり。御方々皆心々に御さうぞく人々の料に櫛扇までとりどりにし出で給へる有樣、劣り優らず樣々につけてさばかりの御心ばせどもに挑み盡し給へればをかしう見ゆるを、東の院の人々もかゝる御急ぎは聞き給ひけれどもとぶらひ聞え給ふべき數ならねば唯聞き過ぐしたるに、常陸の宮の御方あやしう物麗はしうさるべき事の折過ぐさぬ古代の御心にて、いかでかこの御急ぎをよその事とは聞き過ぐさむと覺して、かたのごとなむし出で給ひける。哀なる御志なりかし。靑にびの細長一襲、おちぐりとかや何とかや昔の人のめでたうしける袷の袴一具、紫のしらきり見ゆるあられ地の御小袿とよきころもばこに入れて包みいと麗はしうて奉れ給へり。御文には「知らせ給ふべき數にも侍らねばつゝましけれど、かゝる折は思ひ給へ忍び難くなむ。これはいとあやしけれど人にも賜はせよ」とおいらかなり。殿御覽じつけていとあさましう例のと覺すに、御顏赤みぬ。「あやしきふる人にこそあれ。かく物つゝみしたる人は引き入り沈み入りたるこそ善けれ。さすがに耻ぢがましや」とて「返り事はつかはせ。はしたなく思ひなむ。父みこのいと悲しうし給ひける思ひ出づれば、人におとさむはいと心苦しき人なり」と聞え給ふ。御小袿の袂に例の同じ筋の歌ありけり。