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Page:Kokubun taikan 01.pdf/518

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せ奉らむなど覺し定めて、この御腰ゆひにはかのおとゞをなむ御せうそこ聞え給ひければ、大宮去年の冬つかたより惱み給ふ事更におこたり給はねばかゝるに合せてびんなかるべき由聞え給へり。中將の君もよるひる三條に添ひ侍ひ給ひて心の空なく物し給ひて折惡しきをいかにせましと覺す。世もいと定めなく宮もうせさせ給はゞ御ぶくあるべきを知らず顏にてものし給はむ、罪深きこと多からむ、おはする世に、この事顯はしてむと覺し取りて、三條の宮に御とぶらひがてら渡り給ふ。今は况して忍びやかに振舞ひ給へどみゆきに劣らずよそほしくいよいよ光をのみ添へ給ふ。御かたちなどのこの世に見えぬ心地して珍しう見奉り給ふには、いと御心地の惱しさも取り捨てらるゝ心ちして起き居給へり。御けう息にかゝりて弱げなれど物などいと能く聞え給ふ。「けしうはおはしまさゞりけるをなにがしの朝臣の心惑はしておどろおどろしう歎き聞えさすめれば、いかやうに物させ給ふにかとなむ覺束ながり聞えさせつる。內などにもことなる序なき限は參らず、おほやけに仕ふる人ともなくて籠り侍れば萬うひうひしう世だけくなりにて侍る。齡などこれより增る人、腰堪へぬまでかゞまりありくためし昔も今も侍るめれど、あやしくおれおれしき本性に添ふ物憂さになむ侍るべき」など聞え給ふ。「年の積りの惱みと思う給へつゝ月頃になりぬるを今年となりては賴み少きやうに覺え侍れば、今一度だにかく見奉り聞えさすることもなくてやと心細く思う給へつるを、今日こそ又少し延びぬる心地し侍れ。今は惜みとむべき程にも侍らず、さべき人々にも立ち後れ世の末に殘りとまれる類ひを、人の上にていと心づきなしと見