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Page:Kokubun taikan 01.pdf/50

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いと耻しくこそなりぬれどいといとほしき御氣色なり。とばかり物ものたまはず、いたくうめきて憂しとおぼしたり。

 「はゝき木の心をしらでそのはらの道にあやなくまどひぬるかな。聞えむかたこそなけれ」とのたまへば、女もさすがにまどろまれざりけり。

 「數ならぬふせ屋に生ふる名のうさにあるにもあらず消ゆる箒木」と聞えたり。小君いといとほしさにぬぶたくもあらで惑ひありくを、人あやしと見るらむと侘び給ふ。例の人々はいぎたなきに一所すゞろにすさまじくおぼし續けらるれど人に似ぬ心ざまの猶消えず立ちのぼりけるもねたく、かゝるにつけてこそ心もとまれとかつはおぼしながらめざましくつらければさばれとおぼせどもさもえおぼしはつまじく「隱れたらむ所にだに猶率ていけ」とのたまへど「いとむつかしげにさし籠められて人あまた侍るめれば、かしこげに」と聞ゆ。いとほしと思へり。「よし、あごだにな捨てそ」とのたまひて、御傍に臥せ給へり。若く懷しき御ありさまを嬉しくめでたしと思ひたれば、つれなき人よりはなかなかあはれにおぼさるとぞ。


空蟬

寢られ給はぬまゝに「我はかく人に憎まれてもならはぬを、今宵なむ始めてうしと世を思ひ