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まふなめり。人ざまかたちなどいとかくしもぐしたらむとはえ推しはかり給はじ。いとよくすき給ひぬべき心惑はさむと構へありき給ふなりけり。まことの我が姬君をばかくしももて騷ぎ給はじ。うたてある御心なりけり。ことかたよりやをらすべり出でゝ渡り給ひぬ。宮は人のおはする程さばかりと推しはかり給ふが、少しけぢかき御けはひするに、御心時めきせられ給ひてえならぬうすものゝかたびらのひまより見入れ給へるに、ひとまばかり隔てたる見渡しにかくおぼえなき光のうちほのめくををかしと見給ふ。程もなくまぎらはしてかくしつ。されどほのかなる光えんなることのつまにもしつべく見ゆ。ほのかなれどそびやかに臥し給へりつるやうだいのをかしかりつるを飽かずおぼして、げにあのごと御心にしみにけり。
「なく聲も聞えぬ蟲のおもひだに人のけつにはきゆるものかは。思ひ知り給ひぬや」と聞え給ふ。かやうの御返しを思ひまはさむもねぢけたれば、ときばかりをぞ、
「聲はせで身をのみこがす螢こそいふよりまさる思ひなるらめ」などはかなく聞えなして、御みづからはひきいり給ひにければ、いと遙にもてなし給ふうれはしさをいみじく恨み聞え給ふ。すきずきしきやうなれば居給ひもあかさで、軒の雫も苦しさにぬれぬれ夜深く出で給ひぬ。時鳥など必ず打ち鳴きけむかし。うるさければえこそ聞きもとゞめね。「御けはひなどのなまめかしさはいとよくおとゞの君に似奉り給へり」と人々もめで聞えけり。よべいとめおやだちて繕ひ給ひし御けはひを、うちうちは知らで「あはれにかたじけなし」と皆い