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給ふにもやうやう人の有樣世の中のあるやうを見しり給へば、いとつゝましう心としられ奉らむことはかたかるべうおぼす。殿はいとゞらうたしと思ひ聞え給ふ。うへにも語り申し給ふ。「あやしう懷しき人の有樣にもあるかな。かのいにしへのはあまりはるけ所なくぞありし。この君は物の有樣も見知りぬべく、けぢかき心ざまそひてうしろめたからずこそ見ゆれ」など譽め給ふ。たゞにしもおぼすまじき御心ざまを見知り給へればおぼしよりて、「物の心えつべくは物し給ふめるをうらなくしもうちとけ賴み聞え給ふらむこそ心苦しけれ」とのたまへば、「などたのもしげなくやはあるべき」と聞え給へば、「いでやわれにても又忍びがたう、物思はしき折々ありし御心ざまの思ひ出でらるゝふしぶしなくやは」とほゝゑみて聞え給へば、あな心どとおぼいて、「うたてもおぼしよるかな。いと見知らずしもあらじ」とて煩はしければのたまひさして、心のうちに人のかう推しはかり給ふにもいかゞはあるべからむとおほし亂れ、かつはひがひがしうけしからぬ我が心の程も思ひしられ給ひけり。心にかゝれるまゝにしばしば渡り給ひつゝ見奉り給ふ。雨のうち降りたる名殘のいと物しめやかなる夕つかた、御まへのわかゝへで、柏木などの靑やかに繁りあひたるが何となく心ちよげなる空を見いだし給ひて、「和して又淸し」とずじ給ひて、まづこの姬君の御さまのにほひやかげさをおぼし出でられて、例の忍びやかに渡り給へり。手習などしてうちとけ給へりけるを、起きあがり給ひて耻らひ給へる顏の色あひいとをかし。なごやかなるけはひのふと昔おぼし出でらるゝにも忍びがたくて、見そめ奉りしはいとかうしもおぼえ給はずと思