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Page:Kokubun taikan 01.pdf/39

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ねばなさけなし。えせざらむ人ははしたなからむ。さるべき節會など五月のせちに急ぎ參るあした何のあやめも思ひしづめられぬにえならぬ根をひきかけ、九日の宴にまづ難き詩の心を思ひめぐらし、暇なき折に菊の露をかこちよせなどやうのつきなきいとなみに合せ、さならでもおのづから實に後に思へばをかしくも哀にもあべかりけることの、その折につきなく目にもとまらぬなどを推し量らずよみ出でたる、なかなか心後れて見ゆ。萬の事に、などかはさてもと覺ゆる折から、時々思ひわかぬばかりの心にては、よしばみなさけたゝざらむなむめやすかるべき。すべて心に知れらむ事をも知らず顏にもてなし、言はまほしからむ事をも一つ二つのふしはすぐすべくなむあべかりける」などいふにも、君は人ひとりの御有樣を心の中に思ひ續け給ふ。これは足らず又さし過ぎたる事なく物し給ひけるかなと、ありがたきにもいとゞ胸ふたがる。何方によりはつともなくてはてはては怪しき事どもになりて明し給ひつ。

辛うじて今日は日の景色も直れり。かくのみ籠り侍らひ給ふもおほ殿の御心いとほしければまかで給へり。大方の氣色人のけはひもけざやかにけだかく亂れたる所交らず、猶これこそはかの人々の棄て難く取り出でしまめ人には賴まれぬべけれとおぼすものから、あまり麗はしき御有樣の解け難く耻しげにのみ思ひしづまり給へるを、さうざうしくて中納言の君中務などやうのおしなべたらぬわかうどどもにたはぶれ事などのたまひつゝ、暑さに亂れ給へる御有樣を見るかひありと思ひ聞えたり。おとゞも渡り給ひて、うち解け給へれば御几帳隔てゝ坐しまして御物語聞え給ふを、暑きにとにがみ給へば人々わ