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Page:Kokubun taikan 01.pdf/379

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なり好ましく、なかなか見えて雪の光にいみじく艷なる御姿を見出して、誠にかれまさり給はゞと思ひあへずおぼさる。ごぜんなど忍びやかなるかぎりして「うちよりほかのありきは物うき程になりにけりや。桃園の宮の心細きさまにて物し給ふ式部卿の宮に年頃は讓り聞えつるを今は賴むなと思しのたまふもことわりにいとほしければ」など、人々にものたまひなせど「いでや御すき心のふり難きぞあたら御暇なめる。かるがるしきことも出で來なむ」などつぶやきあへり。宮には北おもての人繁き方なる御門は入り給はむもかろがろしければ、西なるがことごとしきを人入れさせ給ひて宮の御方に御せうそこあれば今日しも渡り給はじとおぼしけるを驚きてあけさせ給ふ。御門守寒げなるけはひうすゞき出で來てとみにもえあけやらず。これより外のをのこはたなきなるべし。ごほごほと引きて「錠のいといたくさびにければあかず」とうれふるを哀と聞しめす。昨日今日とおぼす程に、三十年のあなたにもなりにける世かな、かゝるを見つゝかりそめのやどりをえ思ひすてず、木草の色にも心をうつすよとおぼし知らる。くちすさびに、

 「いつのまに蓬がもとゝむすぼゝれ雪ふる里と荒れしかき根ぞ」。やゝ久しくひこしろひあけて入り給ふ。宮の御方に、例の御物語聞え給ふにふることゞものそこはかとなきうちはじめ聞え盡し給へど御耳も驚かずねぶたきに宮もあくびうちし給ひて「よひまどひをし侍れば、物もえ聞えやらず」とのたまふほどもなく鼾とか聞き知らぬ音すれば喜びながら立ち出で給はむとするに、又いと古めかしきしはぶきうちして參りたる人あり。「かしこけれど、