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見せ侍る程に、忍びて心かはせる人ぞありけらし。かみな月のころほひ月おもしろかりし夜うちよりまかで侍るに、あるうへびと來會ひてこの車にあひ乘りて侍れば、大納言の家に罷りとまらむとするに、この人のいふやう、今宵人まつらむやとなむ怪しく心苦しきとて、この女の家はたよきぬ道なりければ、荒れたるくづれより池の水かげ見えて月だにやどれるすみかを過ぎむもさすがにており侍りぬかし。素よりさる心をかはせるにやありけむ、この男いたくすゞろぎて門近きらうのすのこだつものに尻かけて、とばかり月を見る。菊いと面白く移ろひ渡りて、風にきほへる紅葉のみだれなど哀と實に見えたり。懷なりける笛取り出でゝ吹きならし、かげもよしなどつゞしりうたふ程に、よく鳴る和琴をしらべとゝのへたりけるをうるはしく搔き合せたりし程、けしうはあらずかし。りちのしらべは女の物柔かに搔きならしてすの內より聞えたるも今めきたる物の聲なれば、淸く澄める月にをりつきなからず、男痛くめでゝすのもとに步み來て、にはの紅葉こそふみわけたる跡もなけれなどねたまず。菊を折りて
琴のねも月もえならぬ宿ながらつれなき人をひきやとめける、わろかめりなどいひて、今一聲聞きはやすべき人のある時に手なのごひ給ひそなど、いたくあざれかゝれば、女いたう聲つくろひて
木がらしに吹きあはすめる笛のねをひきとゞむべき言のはぞなきと、なまめきかはすににくゝなるをも知らで又箏の琴を盤しき調に調べて今めかしくかい彈きたるつまおとか