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Page:Kokubun taikan 01.pdf/318

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へるが九尺よばかりにていときよらなるを、をかしげなる箱に入れてむかしのくのえかうのいとかうばしき一壺ぐしてたまふ。

 「たゆまじきすぢと賴みし玉かづらおもひの外にかけはなれぬる。こまゝののたまひ置きしこともありしかばかひなき身なりとも見はてゝむとこそ思ひつれ。うち捨てらるゝもことわりなれど、誰に見讓りてかとうらめしうなむ」とていみじう泣き給ふ。この人も物も聞えやらず「まゝのゆゐごんは更にも聞えさせず、年ごろの忍び難き世のうさをすぐし侍りつるにかくおぼえぬみちにいざなはれて遙にまかりあくがるゝこと」とて、

 「玉かづら絕えてもやまじ行く道のたむけの神もかけてちかはむ。いのちこそ知り侍らね」などいふに「いづら、暗うなりぬ」とつぶやかれて心もそらにて引き出づれば、かへりみのみせられけり。年ごろわびつゝも行き離れざりつる人のかく別れぬることをいと心ぼそうおぼすに、世に用ゐらるまじきおいびとさへ、いでやことわりぞ、いかでか立ちとまりたまはむ我等もえこそ念じはつまじけれと、おのが身々につけたるたよりども思ひ出でゝとまるまじう思へるを人わろく聞きおはす。霜月ばかりになりぬれば雪霰がちにてほかには消ゆるまもあるを、朝日夕日をふせぐよもぎむぐらのかげに深うつもりて越の白山思ひやらるゝ雪のうちに出で入るしもびとだになくてつれづれとながめ給ふ。はかなき事を聞えなぐさめ泣きみ笑ひみまぎらはしつる人さへなくて、夜も塵がましき御帳の內もかたはら寂しく物悲しくおぼさる。

かの殿にはめづらし人にいとゞ物さわがしき御ありさまにてい