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Page:Kokubun taikan 01.pdf/302

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 「數ならで難波のこともかひなきになどみをつくし思ひそめけむ」。たみのゝ島にみそぎ仕うまつる御はらへのものにつけて奉る。日暮がたになりゆく。夕汐滿ち來て入江のたづも聲をしまぬほどのあはれなるをりからなればにや、人めもつゝまずあひ見まほしくさへおぼさる。

 「つゆけさのむかしに似たる旅衣たみのゝ島のなにはかくれず」。道のまゝにかひある逍遙遊びのゝしり給へど御心にはなほかゝりておぼしやる。あそびどもの集ひ參れるも上達部と聞ゆれど若やかに事好ましげなるは皆目とゞめ給ふべかめり。されどいでやをかしき事も物のあはれも人がらこそあべけれ。なのめなる事をだに少しあはきかたによりぬるは心とゞむるたよりもなきものをとおぼすに、おのが心をやりてよしめきあへるも疎ましうおぼしけり。かの人は過ぐし聞えて又の日ぞよろしかりければみてぐら奉る。ほどにつけたる願どもなどかつがつはたしける。又なかなか物思ひそはりてあけくれくちをしき身を思ひ歎く。今や京におはしつくらむと思ふ日數も經ず御使あり。このごろの程に迎へむことをぞのたまへる。いとたのもしげにかずまへのたまふめれど、いざや又島漕ぎ離れ中ぞらに心細きことやあらむと思ひわづらふ。入道もさて出し放たむはいと後めたう、さりとてかくうづもれて過ぐさむを思はむもなかなかきしかたの年比よりも心づくしなり。よろづにつゝましう思ひ立ち難きことを聞ゆ。

まことやかの齋宮もかはり給ひにしかばみやす所のぼり給ひてのちかはらぬさまに何事もとぶらひ聞え給ふことはありがたきまでなさけ盡し給へ