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れどさのみ書き續くべきことかは。渡らせ給ふ儀式變らねど、思ひなしにあはれにてふるき宮はかへりて旅の心地し給ふにも御里住絕えたる年月のほどおぼしめぐらさるべし。年かへりぬれど世の中今めかしきことなく靜なり。大將殿は物憂くて籠り居給へり。ぢもくの頃など院の御時をば更にもいはず、年比劣るけぢめなくて帝のわたり所なく立ち込みたりし馬車薄らぎて、とのゐ物の袋をさをさ見えず、親しきけいしばかり殊に急ぐことなげにてあるを見給ふにも、今よりはかくこそはと思ひやられてものすさまじくなむ。みくしげどのはきさらぎにないしのかみになり給ひぬ。院の御思ひにやがて尼になり給へるかはりなりけり。やんごとなくもてなして人抦もいと善くおはすればあまた參り集り給ふ中にも優れて時めき給ふ。后は里がちにおはしまいて參り給ふ時の御局には梅壺をしたれば、弘徽殿にはかんの君住み給ふ。登花殿のうもれたりつるに晴ればれしうなりて女房なども數知らず集ひ參りて今めかしう花やぎ給へど、御心のうちは思の外なりし事どもを忘れ難う嘆き給ふ。いと忍びて通はし給ふことは猶同じさまなるべし。物の聞えもあらばいかならむとおぼしながら例の御癖なれば今しも御志まさるべかめり。院のおはしましつる世こそ憚り給ひつれ、后の御心いちはやくてかたがたおぼしつめたることどもの報せむとおぼすべかめり。事に觸れてはしたなき事のみ出で來ればかゝるべき事とはおぼしゝかど、見知り給はぬ世のうさに立ちまふべくもおぼされず。左のおほいとのもすさまじき心地し給ひて殊にうちにも參り給はず。故姬君を引きよぎてこの大將の君に聞えつけ給ひし御心を、后はおぼしおきて宜し