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Page:Kokubun taikan 01.pdf/202

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え給ふを、帝御心動きて別れの御櫛奉り給ふ。いとあはれにてほたれさせ給ひぬ。出で給ふを待ち奉るとてはせうに立て續けたるいだし車どもの袖口色あひも目慣れぬさまに心憎き氣色なれば、殿上人どもゝ私のわかれ惜む多かり。闇う出で給ひて、二條よりとうゐの大路を折れ給ふほど二條院の前なれば大將の君いとあはれにおぼされて、榊にさして、

 「ふりすてゝ今日は行くとも鈴鹿川やそせのなみに袖はぬれじや」と聞え給へれど、いと闇う物騷がしき程なればまたの日關のあなたよりぞ御返しある、

 「鈴鹿川八十瀨の浪にぬれぬれずいせまでたれか思ひおこせむ」ことそぎて書き給へるしも御手いとよしよししくなまめきたるにあはれなるけを少し添へ給へらましかばとおぼす。霧いたう降りてたゞならぬ朝けにうちながめてひとりごちおはす。

 「行くかたをながめもやらむこの秋は逢坂山をきりなへだてそ」。西の對にも渡り給はで人やりならず物淋しげに眺め暮し給ふ。まして旅の空はいかに御心づくしなる事多かりけむ。

院の御惱み神無月になりてはいと重く坐します。世の中に惜み聞えぬ人なし。內にも覺し嘆きて行幸あり。弱き御心地にも春宮の御事をかへすかへす聞えさせ給ひて次には大將の御事「侍りつる世にかはらず大小の事を隔てず、何事も御うしろみとおぼせ。齡の程よりも代をまつりごたむにもをさをさはゞかりあるまじうなむ見給ふる。必ず世の中保つべき相ある人なり、さるによりて煩はしさにみこにもなさずたゞ人にておほやけの御後見をせ