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Page:Kokubun taikan 01.pdf/182

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める御ぞ奉れるも夢の心地して我さきだゝましかば深くそめ給はましとおぼすさへ、

 「限りあればうすゞみ衣あさけれど淚ぞ袖をふちとなしける」とてねんずし給へるさまいとゞなまめかしさまさりて經忍びやかに讀み給ひつゝ法界三昧普賢大士とうちのたまへる行ひ馴れたる法師よりはけなり。若君を見奉り給ふにも、何にしのぶのといとゞ露けゝれどかゝるかたみさへなからましかばとおぼし慰む。宮はしづみ入りてそのまゝに起き上り給はず、危げに見え給ふを、またおぼし騷ぎて御祈などせさせ給ふ。はかなく過ぎ行けば、御わざの急ぎなどせさせ給ふも、おぼしかけざりしことなればつきせずいみじうなむ。なのめにかたほなるをだに人の親はいかゞ思ふめる。ましてことわりなり。又たぐひ坐せぬだにさうざうしくおぼしつるに、袖の上の玉の碎けたりけむよりも淺ましげなり。大將の君は二條の院にだにもあからさまにも渡り給はず、あはれに心深く思ひ歎きて行ひをまめにし給ひつゝ明し暮し給ふ。所々には御文ばかりぞ奉り給ふ。かの御やす所は齋宮の左衞門の司に入り給ひにければいとゞいつくしき御きよまはりにことづけて聞えも通ひ給はず。憂しと思ひしみにし世もなべていとはしくなり給ひてかゝるほだしだに添はざらましかば願はしきさまにもなりなましとおぼすには、まづ對の姬君さうざうしくて物し給ふらむ有樣ぞふとおぼしやらるゝ。よるはみ帳の內に一人臥し給ふに、とのゐの人々は近うめぐりてさぶらへど、傍さびしくて時しもあれとねざめがちなるに、聲すぐれたるかぎり撰びさぶらはせ給ふ。念佛の曉がたなど忍びがたし。深き秋のあはれまさりゆく、風の音身にしみけるかなと