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Page:Kokubun taikan 01.pdf/153

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にたはふれごとを聞えかゝりなどする折あれど、情なからぬ程にうちいらへて誠には亂れ給はぬを、まめやかにさうざうしと思ひ聞こゆる人もあり。

年いたう老いたるないしのすけ、人もやんごとなく心ばせありてあてにおぼえ高くはありながら、いみじうあだめいたる心ざまにてそなたには重からぬあるを、かうさだ過ぐるまでなどさしも亂るらむといぶかしくおぼえ給ひければ、戯ぶれ言いひふれて試み給ふに似げなくも思はざりけり。あさましと覺しながら、さすがにかゝるもをかしうて物などのたまひてけれど、人の漏り聞かむもふるめかしき程なればつれなくもてなし給へるを、女はいとつらしと思へり。上のみけづりぐしに侍ひけるをはてにければ、上はみうちきの人召して出でさせ給ひぬる程に、また人もなくてこの內侍常よりも淸げにやうだいかしらつきなまめきてさうぞくありさまいと花やかにこのましげに見ゆるを、さもふりがたうもと心づきなく見給ふものから、いかゞ思ふらむとさすがに過ぐしがたくて裳の裾を引き驚かし給へれば、かはほりのえならず畫きたるをさし隱して見かへりたるまみいたう見延べたれど、まかははいたく黑み落ち入りていみじくはづれそゝけたり。似つかはしからぬ扇のさまかなと見給ひて、我がも給へるにさし代へて見給へば、赤き紙の映るばかり色深きに木高き森のかたを塗りかくしたり。片つ方に手はいとさだすぎたれどよしなからず、「森の下草生ひぬれば」など書きすさびたるを、事しもこそあれうたての心ばへやとゑまれながら「森こそ夏のと見ゆめる」とて何くれとのたまふも似げなく人や見つけむと苦しきを女はさも思ひたらず。