樣の御屋敷、御使者アーと云ふ觸れ込みで、使者の間へ通ると當家の重役で田中三太夫、御年輩の御方禿た頭の眞中に蜻蛉見たやうな髷をつけて、夫れへ參りまして 三「是は〳〵御使者御苦勞に存じます、拙者事は赤井御門守の家來田中三太夫と申す者、以後は御見知り置れて御別懇に願はしふ存じます 次武「コレは〳〵御叮嚀なる御挨拶、自分事はヱーソノ何んで御座る、松平まさめの正の家來、ヱーじぶ田次武ヱーソノじぶ田次武左衛門は手前が舍弟で御座る、ヱー其の手前事は、ヱーじぶ田次武右衛門と申す者、以後御見知り置れて御別懇に願ひまするで、なア 三「手前は田中三太夫で、而て御使者の御口上は 次武「ハイ、手前事は松平まさめの正の家來じぶ田次武右衛門と申しまする者、御見知り置れて御心安く願ひます 三「御名前の儀は兩三度伺ひましたが、シテ御使者の御口上は 次武「ハイ、是ははや困つた事が出來致して御座る、武士にあるまじき事で、當家の御座敷を拜借して切腹致さんければならん事が出來致しました、ハイ實は面目次第も御座らんが、使者の口上ぶち