コンテンツにスキップ

Page:KōgaSaburō-Yōkō Murder Case-Kokusho-1994.djvu/3

提供:Wikisource
このページは校正済みです

妖光殺人事件



 私が弁護士手龍太の訪問を受けたのは、星合ほしあい予審判事の命令で、殺人被告人八木万助の精神鑑定をしようと云う前夜だった。手弁護士と云えば、諸君のうちには御存じの方もあるだろうが、どっちかと云うと小男なんだが、顔はと云うと人並外れて大きく、しかも、俗に鉤鼻と云う、先が曲って垂れ下っている鼻が、その大きな顔の大部分を占めていて、西洋の童話に出て来る妖婆そっくりと云う、グロテスクな人間なので、初対面の私は、彼がグリグリと眼を動かして話し出した時には、何を云い出すかと、内心やや不安を感じたが、彼は流石に弁護士だけあって、話術は甚だ巧みで、いつの間にか、私の心の中の不安は消えて、彼に幾分親しみを覚えるようになったのだった。

 彼は八木万助の義俠的の弁護人だったので、つまり、万助の精神鑑定に立会わして貰いたいと云うのだった。私はそれが法規上、許される事かどうかは、よく知らなかったが、彼が今までに度々万助に接していたとすると、万助が彼から何事か暗示を受けて、それが鑑定の邪魔になる事を恐れたので、万助と同室する事は断って、その代りに、隣室で問答を洩れ聞いている事を、許す事にした。手