リと振動した。
「アッ」
判事を始め、手塚も私も共に腰を浮かしたが、青年理学士は平然としながら、窓の外を指した。
「御覧なさい。新研究室が小爆破をしました。恰度、横林傅士が坐って、脇田博士の研究を調べている所です。脇田博士は死後の復讐を遂げたのです。あの新研究室は、脇田博士が第一次の失敗後、新たに建設したもので、円天井の上に、日時計をとりつけたように見せかけて、小さい
私は死後の恐ろしい復讐の遂げられるのを知りながら、平然とそれを見送った青年の顔を眺めて、ここにもまた、科学者の冷さ〔ママ〕を発見して慄然とした。
そうして、眼を転じて窓外の半ば崩れ落ちた円天井を見た時に、血みどろになって、組んずほぐれつ摑み合って、そのまま力尽きた二人の人間の残骸を、まざまざと見せつけられたような気がした。
一一
脇田博士と横林博上の
私はその後暫く経って、手塚弁護士に会ったので、青年理学士の事を聞いた。
すると、彼は大きな鼻を呑んでしまう位、大きな口を開いてカラカラと笑いながら、
「いや、手塚龍太散々の失敗じゃ。きゃつは万助が見たと云うモヤモヤの光に心当りがあるからと云って来たので、一つ利用して、何か旨い汁を吸ってやろうと思ったのじゃが、馴れない
「すると、あの理学士は」
「真赤な偽者じゃ。きゃつ、名前ははっきりせんが、いずれ相当の
(「新青年」昭和七年六月号)