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「先刻も云つた通り、高野はどこからか青い宝石を手に入れた。所が、それを奪い取ろうと覘うものがあるので、どことも知れず隠して終つたのだ。その隠場所に就いては無論僕は知らなかつたのだが、後に彼が惨殺された時に、彼の連れていたブルドックが行方不明になり、而も遺族でもないものが、巨額の懸賞金を以て、捜索の広告を出した事、後には死体でも好いと云い出した所から、漸く察する事が出来たのだ」

「あつ、それでは宝石はブルドックのどこかに隠してあったのですか」青年は叫んだ。

「その通りだ」竜太は大きくうなづいた。

「飼犬のブルドックのどこかに宝石を隠して置くなんて、素晴らしい考えだね。ブルドックは無暗に出歩くものではない。他人では鳥渡手をつけかねるし、第一そんな隠場所を気付く人間は容易にありやしない。一時的の隠し場所としては絶好じやないか」

「どう云う方法で隠したんでしようか」

「それも推察に難くないね、後に起つたブルドック射殺事件に或は関係のない事かも知れんが、仮に関係ありとするとだね、射殺の目的の一部は首環にあつたのだ。而も犯人は飾りのない普通の首環には手を触れなかつた所を見ると、当りがつくじやないか」

「あつ、それでは宝石は首環の飾りの金属性の疣の中に隠してあつたんですね」

「そう考えられない事はないね。そこでだ。今度は首環の中に宝石が隠してあつたものとして、今までに起いた事件を説明して見るんだ。高野を殺した犯人は首環に宝石を隠してあつた事実を知つていたとする。そこで彼は高野が犬を連れて散歩に出たのを見すまし、先ず高野を射殺し、ついで犬も射殺そうとしたが、ブルドックはいきなり彼の短銃を持った手に喰いついて、犯人のひるむ暇に逃走した、とこう考えるんだ。

 で、その後に起つたブルドック射殺事件だが、之は前にも云う通り全然別の事件かも知れぬ。犯人が別だと云う場合から考えて見よう。犯人が別だとすると何故彼は首環を覘つたかと云う事を第一に考えねばならない。彼は明らかに首環そのものを覘つてはいない。現に彼は十分余裕のある場合は首環を調べて見ただけに止つて、急迫した時に限つて首環を持つて逃げている。だから彼はやはり首環に隠された何者かを探つているのだ。で、犬が多く輸入犬であつた事からして、首環の中に宝石を隠して密輸入を企てた者が、手違いから犬を首環のまゝ売られて終つて、仕方なく片端から探ね歩く、こう考えられない事はない。探偵小説によくある筋だ。もつと空想を逞しゆうすると、或いは宝石がブルドックの歯の中に隠してあつたかも知れ