直子が云われた通りに穴に鉄の塊を入れると、塊は穴に恰度スレスレに適合して、スルスルと滑って行った。
と、轟然たる音響! グラグラと蔵が
地震! 二人は手を取って飛出したが、ぞっとした事には、地面が急に落込んだと見えて、蔵の直ぐ外側に大きな穴が開いて、蔵の壁の一部がその中へ落込んでいた。
二人は手を握り合って、ブルブル顫えながら穴の中を見たが、あっと叫んで顔色を変えた。
穴の中に血に
二人で
「あっ、あれは確かに茂吉です」そう云って彼女は繁太郎に
「茂吉とは」
「以前私の所にいた下男です」と直子は答えた。が何を見つけたか再び驚きの声を上げた。「あの、二人の斃れている下に何かあります」
不意に落込んだ穴の中には大きな鉄製の函があって、その中には時価十万円余の
九
「直子さん、蔵を壊して見てすっかり分りましたよ」繁太郎はニコニコしながら云った。二人は広々としたヴェランダに籐椅子を向い合せて、庭から吹いて来るソヨ風に頰を
「あなたのお父さんの頭は偉い頭でしたね。組織的の学問をしていたら恐らく大発明をしたでしょうよ」繁太郎は語り続けた。「お父さんのお考えは要するに重力の応用なんです。よくホラ富士山の上で小石でも下へ落してはいけないと云うでしょう。その訳は頂上で小石を落すと、小石はコロコロ転げてだんだん勢がついて、自分より大きい石にコツンと突当ってもそのままその石で食い止められないで、今度はその石を
ところで、お父さんの考えた事はも一つ、自働〔ママ〕電話を掛けた人は知っているが、十銭を入れる穴へ間違って五銭を入れると、下へストンと落ちて来る装置があります。あれは訳はないので、金の滑り落ちて行く道に十銭は通り過ぎるが、五銭は通り過ぎる事が出来ないという間隙を拵えておけば宜しいのです。
直子さん、宜しいか、あなたのお父さんはこれだけの事を利用して宝物を地中に隠したのです。あの鉄の塊りを投げ入れた穴ですね。あれは他の形のものを入れると、下まで届かないうちに
鉄の塊が管に沿って走り出し、十分な強さになって、ドンと底へ突き当りますと、まず第一の槓杆が外れ、次に第二の槓杆が外れ、次に外れて行って、最後にあの
穴の開いた時に蔵の壁が落ちたのは、全く蔵の土台が腐っていたためで、お父さんの設計ではそんなはずはなかったのです。そのために
あの二人は我々を尾行して蔵の外に立ち、あわよくば掘り出した宝を
茂吉はきっと基盤の秘密を知っていたのでしょう。私の考えではあの碁盤の中にはダイヤモンドが這入っていたのでも何でもなく、もしあなたに渡しておいた鉄の塊が紛失でもした時に、あの穴を型にして、鋳造する事が出来るようにしてあったのでしょう。ところで、茂吉は会々碁盤の足を抜いて、東南、蔵、鍵という暗号とあの