折柄、巨獣の吠えるような音と共に、岩を嚙む怒濤と、恐ろしい
「
「なに、六年前?」頰傷の男は膝を進めるように聞く。
「うん、六年前の嵐の晩の事なんだ」
「そう云えば、六年前にもこんな嵐があった」頰傷の男は
「おお、お前さんもあの嵐を覚えているかい。あの頃にゃ、さっきお話の殺されたとか云うお爺さん婆さんは未だ達者よ。その嵐の晩に起った出来事、こいつあ、お前さん知るめいな」
「この家にかい」
「そうだ」
「知らねえ」頰傷の男は吐き出すように云う。
「そうだろう」
「どう云う出来事だか、一つ話して貰いたいな」
「話そうとも、事によったらお前さんの話と何か関係があるかも知れねえ」
嵐は
二、最初の暴風雨の夜
(額に傷痕のある男の話)
その晚の暴風雨はかなり酷かったと云う事だ。だが、家はこんなに腐っちゃいないし、年寄夫婦も達者でいたのだ。今晩ここにこうして、お前さんと一緒にいる程には気味悪くもなかったろうじゃないか。
一体、何だって爺さん夫婦がこんな所に
今云った嵐の晚、爺さん夫婦は沖に難破船でもなきゃ好いがと気遣いながら、真夜中までまんじりともしなかったが、果して夜中過ぎ、裏口を叩いて救いを求める声がしたのだった。爺さんが木戸を開けると、雨と風と一緒に、ひょろひょろと這入って来たのが、重そうな袋を