Page:KōgaSaburō-A Doll-Tōhō-1956.djvu/17

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だつた。



「ハヽヽヽヽヽ、今日は面白いものが見られるぜ」

 自動車が途中で止ると、ぬつと這入つて来たのは、例の怪異な相をした小男の手だつた。

「眼の動く人形と云うのはどう云う事なのですか」簑島は幾分心易く聞いた。

「まあ、暫く辛抱し給え。直ぐ分るから」

 自動車はやがて宏壮な建物の前に止つた。それは思いがけなく代議士の菅原精一の家だつた。

 二人は直ぐに、贅沢の限りを尽した広々とした応接室に通された。

 やがて腮髯を長く延ばして傲然とした中年紳士が、葉巻シガーを片手に悠然と現われて、卑しむように二人を見下しながら、

「何か用かね」と云つた。

「余り好い用じやないよ」手は揶揄うような口調で、

「ちよつと許り無心に来たのさ」

「怪しからん」菅原はむつとしたように、

「無心なら無心らしく云うが好い。その口の利き方は何だ」

「ウフヽヽヽ」手は薄気味悪い笑を洩らしながら、

「無心にだつて頭を下げて貰うのと、威張つて貰うのとあらあな。俺のは頭を下げるような生優しいのじやないのだ。おい、菅原、俺は之が買つて貰いたいのだ」

 そう云うと共に手はトンと力強く卓子に何か叩きつけた。見ると、それはいつの間に取り出したか、一つの金属製の人形だつた。

「あツ、それは」菅原はサッと顔の色を変えた。

 人形は例の亀津が白石の所から盗み出したものに相違なかつた。顔は確かに彼の語つたように一目見てもぞつとする程妖異な相で、膚は蛞蝓のように蒼白く光つていた。そして、何よりも怪奇に恐ろしく見えたのは、そのギロと動く両眼だつた。

「どうだ、驚いたろう」手はせゝら笑いながら、

「このギロ動く眼は、恰度天秤の皿のように、眼の玉と同じ重さのもので平衡を取つて、