Page:Iki-no-Kozo.djvu/86

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基體としての顏面と、顏面の表情󠄃との二方面に「いき」が表現される。基體としての顏面、卽ち顏面の構造󠄃の上からは、一般的に云へば丸顏よりも細おもての方が「いき」に適󠄃合してゐる。『當世顏は少し丸く』と西鶴が言つた元祿󠄁の理想の豐麗な丸顏に對して、文󠄃化󠄃文󠄃政が細面の瀟洒を善しとしたことはそれを證してゐる。さうして、その理由が、姿󠄄全󠄃體の場合と同樣の根據に立つてゐるのは云ふ迄もない。

 顏面の表情󠄃が「いき」なるためには、眼と口と頰とに弛緩󠄃と緊張とを要󠄃する。これも全󠄃身の姿󠄄勢に輕微󠄄な平󠄃衡破却が必要󠄃であつたのと同じ理由から理解出來る。に就ては、流眄が媚態の普通󠄃の表現である。流眄、卽ち、流し目とは瞳の運󠄃動によつて、