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所帶をはなれて。飢寒につめられたるもの幾千万といふ數をしらず。かくのごとく無理非道に押領をいたす輩は。偏に慈悲の心のかけたるゆへなるべし。修因感果のことはりを思ひさとらぬことこそあさましけれ。

一藝能をたしなみたまふべき事。

弓馬の道はもとより御家のことなれば不申。其外歌道蹴鞠諸藝に至までも御好にしたがふべし。鹿薗院殿は節會の內弁なども勤仕し給ひ。管絃聲明の道までも嗜給へり。それまでの事は御數寄のあまりなり。何事にても近習の輩などに心をゆかさしめん事は時にしたがひてたしなませ給ふべし。酒なども歡伯と號てよろこびのともにするわざなれば。たれ〴〵にも給はるべき。何の子細か有べきや。さりながら論語の文にもたゞ洒ははかりなし。亂にをよぼさずと見えたり。下戶上戶によりて更に法令なき物なれば。はかりなしとはいへり。亂に及さずといふは。本性を失ふほど醉まじき事を申侍り。いかにも面白く興有ほど是を翫びて醉と思しめさん時は。たれ〴〵もはやく寐たらんにはしくべからず。いかにも矢有事おほき故也。近習の輩など酒に醉て緩怠をいたさば。醉たるほどは中々仰らるべからず。さけ醒て本性に成たらん時。かゝるふるまひの有しは覺侍らぬか。いかにも向後は斟酌をいたすべしと仰られんこと。御扶助イのあまり成べし。

一政道を御心にかけらるべき事。

何事を申てもおちふす所はたゞ政道を正しく行はんにはしくべからず。近年寺社の本所領を無理に押へ。知行せらイるかた〴〵のこと。猛惡の心を先として。後代の名をも耻辱をもかへりみざるにや。流石代々忠節奉公をいた