このページは校正済みです
てごしとかや申所に。遊女とおぼしくて門に立侍をみて。
おほけなくよその袖迄引はやと見ゆるてこしの里の浮れめ
又藤枝の御とまりにつき侍て。
秋の露もわかむらさきの色に出よ松にかゝりし藤枝の里
範政詠進につきて。御詠をくだされ侍しついでに。
誰もみなひかりにあたる日本の神と君とをさそてらす覽
廿二日。夜をこめて立侍るに。せとやまとかや申所にて。
都にと又こそいそけをひ風も船路にはあらぬせとの山こえ
嶋田川と申所にて。
しま田川はしうちわたす駒の足もはやせの浪の音そ聞ゆる
大井川と申所にて。
思はすよみやこの西のおほ井河東路かけてなかれこんとは
又さよの中山にて御詠を拜見して。
君よりも君をやしたふ今日さらに又あらはるゝ富士の高根は
廿三日。此國の府中をたち侍るに。あけぼのゝ空霧わたりて。鴈の鳴侍るを聞て。うへ松と申所にて。
行末のちとせをかけて君か爲けにうへ松の里とこそみれ
ひくま野と申所も此あたりときゝ侍て。
惠ある君にひかれてひくまのや旅としもなき旅のみち哉
又みちのかたはらにふるき松あり。木だちの拈比類なく。其興ある松也。人に問侍れば。八百年ばかりの星霜をも送侍るらむ。名をばせうらが松と申侍しかば。
翁さひうへけるのへの松か枝はさていく秋の霜をへぬらん
はまなの橋もやう〳〵ちかく成しかば。
けふは又めにかけてのみいそくかな濱名の橋の遠き渡りを
廿四日。橘下の御とまりを立侍しに。雨ふり出侍しかば。
旅人のみのゝうは毛もしらすけの湊やいつく雨はふりきぬ
いまばしと申所にて。
君かためわたす今橋今よりはいく萬代をかけてみゆらん
矢はぎのとまりちかくなりて。