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Page:Gunshoruiju18.djvu/503

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延應四條の比より關東のたかきいやしきをすすめて。佛像をつくり堂舍を建たり。その功すでに三か二にをよぶ。烏瑟たかくあらはれて半天の雲にいり。白毫あらたにみがきて滿月の光りをかゞやかす。佛はすなはち兩三年の功すみやかになり。堂は又十二樓のかまへ望むにたかし。彼東大寺の本尊は聖武三十五代天皇の製作金銅十丈餘の盧舍那佛なり。天竺震旦にもたぐひなき佛像とこそきこゆれ。此阿彌陀は八丈の御長なれば。かの大佛のなかばよりもすぐめり。金銅木像のかはりめこそあれども。末代にとりてはこれも不思議といひつべし。佛法東漸の砌にあたりて。權化力をくはふるかとありがたくおぼゆ。かやうのことどもを見聞にも。心とまらずしもはなけれども。文にもくらく武にもかけて。つゐにすみはつべきよすがもなきかずならぬ身なれば。日をふるまゝにはたゞ都のみぞこひしき。歸べきほどとおもひしもむなしく過行て。秋より冬にもなりぬ。蘇武が漢を別し十九年の旅の愁。李陵が胡にいりし三千里のみちの思ひ身にしらるる心ちす。聞なれし虫の音もやゝよはりはてて。松ふく峯のあらしのみぞいとゞはげしくなりまされる。懷古のこゝろに催されて。つくづくと都のかたをながめやる折しも。一行の鴈がね空に消ゆくも哀なり。

 かへるへき春をたのむの鴈かねもなきてや旅の空に出にし

かゝるほどに神無月の廿日あまりの比。はからざるにとみの事ありて都へかへるべきになりぬ。其こゝろのうち水ぐきのあとにもかきながしがたし。錦をきるさかひはもとよりのぞむ處にあらねども。故鄕にかへるよろこびは朱買臣にあひにたるこゝちす。

 故鄕へ歸る山ちのこからしにおもはぬほかの錦をやきむ