Page:Gunshoruiju18.djvu/398

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るやうなれば。うゐしきさと人はありなしをだにしらるべきにもあらぬに。十月ついたちごろのいとくらき夜。ふだん經にこゑよき人々よむほどなりとて。そなたちかきとぐちにふたりばかりたち出て聞つゝ物がたりしてよりふしてあるに。まいりたる人のあるを。にげ入てつぼねなる人々よびあげなどせんもみぐるし。さはれたゞおりからこそかくてだ[ゝイ]といふ今ひとりのあれば。かたはらにてききゐたるに。おとなしくしづやかなるけはひにて物などいふ。くちおしからざなり。いまひとりはなどとひて。世のつねのうちつけのけさうびてなどもいひなさず。世中のあはれ成ことどもなどこまやかにいひ出て。さすがにきびしうひきい[りイ]かた[いイ]ふし有て。我も人もこたへなどするを。まだしらぬ人のありけるなどめづらしがりて。とみにたつべくもあらぬほどほしのひかりだに見えずくらきに。うち時雨つゝ木の葉にかゝるおとのおかしきを。中々にえんにおかしき夜かな。月の隈なくあかからんも。はしたなくまばゆかりぬべかりけり。春秋の事などいひて。時にしたがひ見ることには。春がすみおもしろく。空も長閑にかすみ。月のおもてもいとあかうもあらず。とをうながるゝやうにみえたるに。琵琶のふがうてうゆるらかにひきならしたるいといみじく聞ゆるに。また秋に成て。月いみじうあかきに空は霧わたりたれど。手にとるばかりさやかにすみわたりたるに。風の音。蟲のこゑ。とりあつめたる心ちするに。箏のことかきならされたる。[ひイナシ]やうじやうのふきすまされたるは。何の春とおぼゆかし。又さかとおもへば。冬の夜の空さへさえわたりいみじきに。雪の降つもりひかりあひたるに。ひちりきのわ