群書類從卷第三百二十
和泉式部日記
夢よりもはかなき世中を歎きつゝ。明し暮す程に。はかなくて四月十日あまりにもなりぬれは。このしたくらかりもていく。はしのかたを眺むれは。ついひちのうへの草のあをやかなるも。ことに人はめとゝめぬを。あはれに眺むる程に。ちかきすいかいのもとに。人のけはひのすれは。誰にかと思ふほとに。さし出たるをみれは。故宮にさふらひしことねりわらはなりけり。あはれに物を思ふほとにきたれは。なとかいと久しう見えさりつる。とをさかる昔のなこりにはと思ふをなといはすれは。そのこと〳〵さふらはては。なれ〳〵しきやうにやとつゝましうさふらふうちに。日比山寺にまかりありき侍るになむ。いとたよりなくつれ〳〵に候へしかは。御かはりに見まいらせむとて。帥の宮になむ參りて侍しと語れは。いとよき事にこそあなれ。其宮はいとあてにけちかうおはしますなるは。昔のやうにはえしもあらしなといへは。しかおはしませと。いとけちかうおはしましてまいるやとゝはせ給ふ。參りはへりと申侍つれは。これまいらせよ。いかゝ見給ふとて橘をとりいてたれは。昔の人のといはれて見るまいりなむ。いかゝきこえ