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Page:Gunshoruiju17.djvu/150

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むかし。女をいたううらみて。

 岩根ふみかさなる山はへたてねとあはぬ日おほく戀渡る哉

むかし男。伊勢の國なりける女に。又もえあはでうらみければ。女。

 大淀の濱におふてふみるからに心はなきぬかたらはねとも

といひて。ましてつれなかりければ。

 袖ぬれて蜑の刈干すわたつ海のみるめ逢迄やまんとやする

女。

 岩間より生るみるめし常ならは汐干汐みちかひもしほりはかひもからなん一本あらなんありなし一本

又。おとこ。

 淚にそぬれつゝしほるあた人のつらき心は袖のしつくか

とのみいひて。世にあふことかたきことになん。

むかし男。伊勢國なりける女を。またはえあはで。となりの國へいくとて恨ければ。女。

 大淀の松はつらくもあらなくにうらみてのみもかへる浪哉

昔。ニ條の后の春宮のみやす所と申けるころ。氏神にまうで給けるに。つかうまつれりけるこのゑづかさなりける翁。人々のろく給はりけるつゐでに。御車より給はりてよみて奉る。

 大原や小鹽の松も山へけふこそは神世のことおもひいつらしるら一本古今

 昔きたのみこと申すみこいまそかりけり。田村の御門のみこにおはします。そのみこうせ給ひて。なゝ七日のみわざ安祥寺にてしけり。右大將藤原のつねゆきといふ人。其みわざにまいり給ひて。かへさに山しなのぜんじのみこの御もとにまいり給ふに。その山科の宮。瀧おとし水はしらせなどして。おもしろく作れり。まうで給ふて。年比よそにはつかうまつれど。まだかくはまいらず。こよひはこてにさぶらはんと申給ふを。みこよろこび給ひ。よるのおまし所まうけさせ給ふ。この大將いでて。人にたばかり給ふやう。宮づかへのはじめにただにやは有べき。三條にみゆき有し時。きのくにの千里の濱にありけるいとおもしろき石奉