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斷 片 59


僕は君が生れた時隣りの部屋で
夢中になつて君の母の苦しみを聞きながら原稿を書いてゐた
だつて僕はその時金が一文もなかつたからさ
僕は原稿を書き終えたら君は生れた
僕は原稿をボストへ入れに出ながら
わななく心を押へながら上野にゐる友達に金を借りに行つた
僕はアーク燈のぼんやりした公園の森の中を
聲高々と歌を歌つて步いて行つた
自然に僕は歌つてゐたのだ
僕は自分に氣がついてからも歌つた
僕は愉快でならなかつた
友は金と一緖におむつとタオルを渡してくれた