ふみおつて、何の用にも立ぬべき樣もなし、是に依て土民の手にわたり侍りき、いやししづのやに使ける習、糞土をおほせてひき行ぬ、其馬のさまも瘦衰へ、有かなきかの姿に成侍りぬ、有時此馬糞土をせおふて返けるに、件のろば行あひけり、彼ろばつく〴〵と此馬を見て、扨も〳〵御邊はいつぞや我等をのゝしり給ふ
第三十三 鳥けだものと戰ひの事
あるとき、鳥けだものとすでに戰に及ぶ、鳥の云く、軍にまけて今はかうよと見えし時、蝠蝙畜類にこしらへかゆる、鳥共愁云、かれらがごときものさへ獸にくだりぬ、今は詮方なしと悲む處に、鷲申けるは、何事をかなげくぞ、われ此陣にあらん程は、たのもしく思へといさめて、またけだものゝ陣にをしよせ、此度は鳥の軍よかんめれ、たがひに
第三十四 かのしゝの事
あるとき、かのしゝ川の邊に出て水のみける時、汝〈己カ〉が角の影水にうつりて見えければ、此角の有樣をみて、扨もわがいたゞきける角は、萬のけだものゝなかに、またならぶものは有べからずと、かつは高慢の思ひをなせり、又我四足の影水底にうつりて、いと便なく細して、しかも蹄二つにわれたり、又鹿心に思ふやう、角はめでたう侍れど、我四つの足はうとましげな