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れをして動靜の理を知り、之れをかたちして死生の地を知り、之れにれて有餘いうよ不足ふそくの處を知る。故に兵にかたちするの極は無形むけいに至る、無形なれば則ち深間もうかゞふ能はず、智者もはかる能はず。かたちに因つて勝つことを衆にけば衆知る能はず。人皆我が勝つ所以のかたちを知るも吾が勝を制する所以の形を知ることなし、故に其戰勝つてまたせず、而して形に無窮に應ず。

 夫れ兵の形は水にかたどる、水のかたちは高きを避けてひくきにはしる。兵の形は實を避けて虛を擊つ、水は地に因つて流を制す、兵は敵に因つて勝を制す。故に兵に常勢なく、水に常形なし。能く敵に因つて變化して勝を取るもの之れをしんと謂ふ。故に五行ごぎやうに常勝無く、四に常位無し、日に短長あり、月に死生あり。


軍爭第七

 孫子曰く、凡そ兵を用ふるの法、將、命をきみに受けて軍をあはせ衆をあつめ交和して舍す、軍爭ぐんさうより難きはなし。軍爭の難きは、を以て直となし、患を以て利となす、故に其途をげて之れを誘くに利を以てし、人に後れて發し人に先んじて至る、此れ迂直うちよくの計を知る者なり。故に軍爭を利となし、衆爭しゆうさうとなす。軍を擧げて利を爭へば及ばず、軍をてゝ利を爭へば輜重しちようつ。是