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まのあたり狙ひに息をつめたるがたまらなく何か喚きたくなる


いちめんの壁の厚きに囲まれて今日のきのふの歌うたひ居り


雲の脊に青いランプをひともしてうつろな街がまた呼んでゐる


夜の星のその一つには触れかねて樹に寝る鳥の命おびやかす


ぬくもりの失せた掌を月に拍つ午前零時の時計台の上で



 裏街


まつすぐに露路の正面へ日が落ちる光に行けば足音たかし


石塀のなかほどにある裏木戸の小さき見れば人の憎めぬ


街なかのとよみ一瞬鳴り歇んで太陽の噓が空にひろがる


曇り日の土のしめりに湧いてくるしんじつのなかに蟲が芽を喰ふ