コンテンツにスキップ

Page:1941HaseGenka.djvu/26

提供:Wikisource
このページは検証済みです
第一章 總論
 

 旣に述󠄁べたやうに原價計算導󠄁入の動機は經營擁護の營利意識であつた。從つて利潤が經營者者の滿足する程󠄁度であるならば原價計算制度を實施しやうママとしなからうと、それは勿論經營者の勝󠄁手である。我國でも相當有力な會社であり乍ら、最近󠄁まで原價計算をやつて居らぬものが相當あつたのも斯る事情󠄁であらう。我國で原價計算の遲れたのも從來原價計算の性格が企業的性格に過󠄁ぎず、原價計算を痛感する社會情󠄁勢が釀成されなかつたのも大きな理由である。だが經營合理化󠄁を目指して積極的な經營態度を採󠄁る經營者であるならば必ず原價計算に着眼して來たに違󠄂ひない。

 偖て我國で原價計算に就て官民共に眞󠄀劍に考へるやうになつたのは、今次󠄁支那󠄁事變に於ける國家總動員法の發動による軍部の軍需品工場事業場に對する統一的原價計算制度實施の强制化󠄁である。これを契󠄁機として我國の原價計算制度は驚異的に飛躍󠄁したことは誰れでも知つて居ることである。然し乍ら軍部が原價計算制度の强制導󠄁入を軍需工業に命じた當初に於ては僅か少數乍らも、これを厄介視し有難迷󠄁惑に感ずる向もない譯ではなかつた。それは要󠄁するに原價計算は手數の掛るもの費用の掛るものであるといふ誤󠄁解又は認󠄁識不足と營利意識から原價計算制度を眺めるからであつた。

 だが營利意識から原價計算制度を觀ることは最早己ママめねばならぬ。時局は原價計算の實施を國家的見地から要󠄁請󠄁して居るのである。現在の如く國際情󠄁勢の緊迫󠄁化󠄁して居る我國では生產力增强は緊