のたまはくよく合點し給へ名主殿すでに此灵つく
事は。その怨念をはらさんために。來るにはあらずや
しからばかれが本望をもとげさせず。ぜひなく吊ふた
ればとて。何としてかうかぶべき。早〻せんぎしたまへと有
れば。名主またいわく。御意もつともにては候へ共今此大
群の中にて。何者をとらゑいかやうにかせんぎ仕らん
と。一向承引せざる時和尚いかつてのたまはく。さては
その方は我がいふ事をうけぬと見へたり。よし〳〵我今
寺に帰り。弘經寺をおしかけ。地頭代官へつげしらせ
急度せんぎをとぐべきが。それにてもなを所の者を
かばい。せんぎ成まじといわるゝかと。あらゝかにのたまへ
ば。名主十方にくれ。さては何とかせんぎ仕らん。庄右衛門
はいかゞ思はるゝぞといふ時。庄右衛門がいわく。とかくたゞ
今和尚のたつね給御詞と。菊が答る言葉を。少も
のこさず此大勢の中へ。だん〳〵にふれ廻し。一〻人の
返答を。きくより外の事あらじといゝければ。此義尤
しかるべしとて。名主一つの法言を出し。居長高に
のびあがり。高聲にふれまはすは。おこがましくはありながら
とふとかりけるせんぎなり。其ことばにいわく。只今
祐天和尚。菊を責る者は何ものぞとたつね給へば
灵魂の答へには。すけといふわつはし成が。かてつみに
ゆくとて。松原の土手より。きぬ川へさかさまに。打こふだ