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六年以前絹川（きぬかは）にてよくも〳〵。我に重荷（おもに）をかけむたひに責殺（せめころ）しけるぞや。其時やがてとりころさんと思ひしかども。我さへ昼夜（ちうや）地獄（ぢごく）の呵責（かしやく）に逢（あひ）て隙（ひま）なきゆへに。直（じき）に來（きた）る事かなわず。然共我が怨念（おんねん）の報（むく）ふ所。果（はた）して汝（なんぢ）がかわゆしと思ふ妻（つま）。六人をとりころす。その上我数（かず）〳〵の妄念（もうねん）虫（むし）と成て。年來（としころ）汝（なんぢ）が耕作（こうさく）の実（み）をはむゆへに。他（た）人の田畑（てんばく）よりも不作（さく）する事今思（おも）ひ知（し）るや否（いな）や。我今地獄（ぢごく）の中にして。少（すこし）の隙（ひま）をうるゆへに。直（じき）に來（き）て菊がからだに入替（かわ）り。㝡後（さいご）の苦患（ぐけん）をあらはし。まづかくのごとく。おのれを絹（きぬ）川にてせめころさん物をといゝ。すでにつかみつかんとする時。父も夫（おつと）も大きにおどろき跡（あと）をもかへり見ず与右衛門は法蔵寺（ほうぞうじ）へ逃行（にげゆけ）ば。甥（むこ）は親（おや）の本（もと）に走（はし）り帰（かへ）り。ふるひわなゝひてかくれ居（ゐ）たり。其時（そのとき）しも隣家（りんか）の若（わか）き男共。二十三夜（や）待（まち）と称（せう）し。一所（しよ）にあまた集（あつま）り居（ゐ）けるが。此あらましを傳（つた）へ聞（き）き。さもあれ不思議（ふしぎ）なる事かな。いざ行（ゆ）ひて直（じき）に見んとて。彼方（かなた）此方（こなた）もよほすほどこそあれ。村中の者共悉（こと〴〵）く与右衛門が所に集（あつま）り。かの女子（によし）を守（まも）り見けるに。其の苦（くるし）みのありさま。いか成衆合（しゆがう）呼喚（けうくわん）の罪（ざい）人も是にはまさらじと。苦痛（くつう）顛倒（てんどう）して絶入事（たへいること）度〻（たび〳〵）也。其時村（むら）人菊（きく）よ〳〵とよばわれは。しばらく有て