死霊解脱物語聞書下
去(さんぬ)る二月廿八日斎(とき)の座席(せき)にて。累が灵魂(れいこん)忽(たちまち)はなれ。 菊本復(ふく)する故に。聖霊(せうれう)得脱(とくだつ)疑(うたが)ひなしと。人〻安堵(あんど) の思ひをなし。みな〳〵信心歓喜(くわんぎ)する所に。亦(また)明(あく)る三月 十日の早朝(そうちやう)より。累が灵(れう)來て。菊を責(せむ)ること例(れい)のごとし。 時に父も夫もあわてふためき早〻名主年寄にかくと告(つぐ)れ ば。兩人おどろき則來て。菊に向ひ累は何くに在る ぞ。亦何として來るといへば。菊がいわく約束(やくそく)の石仏を もいまだ立てず。其上我に成佛をも遂(とげ)させず。大 勢(せい)打寄僞(いつは)りを構(かま)へて亡者(もうじや)をたぶらかすといふて我を