Page:樺太アイヌ叢話.pdf/37

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の皮にて作りたる帽子)アザラシ皮又マス、サケ等の魚皮にて作りたる深靴を穿く、以上は何れも婦人の手にて作りたる物にしてそれは何れも冬期の防寒用なり、スマリ(狐)オボカイ(シヤコ鹿)ルシ(皮)そして彼等は腰の右側にイナサク(小刀)を着ける。長さ六寸位より七八寸幅八分乃至一寸位のものであり「マキリ」とも云ふ。此の外チエンケ、マキリもある。長さ三寸幅八分位で根元より刄先迄少しく曲り桶屋等が使用する刄物如きものを下げる。其の用途イナサクは木を削り又は食事の時ナイフの代用に用ひらる。チエンケ、マキリは神樣に捧ぐるイナウ(御幣)を削り又木に穴を穿つに用ひらる。鞘は前のイナサクは木、海馬の皮、アザラシの皮の三種を用ひて作る。その形は恰もサケ、マス、の頭部を上にし尾部を下に垂らした如く魚形體に作り木には樣々の彫刻を施す物なり。

 左側の腰にはルヨマハと言ふものを下げる。それはアザラシの皮にて作り長さ八寸幅四寸位の袋にして其中にカヒマハと稱す火打道具を入れたもの又煙草入等を入れ何れも種々の色模樣を施したる綿布又は色糸にて作つたものである。以上何れの物も帶に結び付けてをくのである。此れは少年時代より老年に至る迄男子の外出の場合は此れを携帶す可きものにして常に銳利に磨ぎ置くものであつて、其が何れもアイヌの自作品である。婦女子には別に婦人用としての物有れど別に婦女の部に揭ぐ。