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往昔西比利亞より韃靼海峽を渡り、樺太土人と貿易し居たりしアイヌの呼稱するチヤンタ又はサンタ人とも言ふ此のチヤンタを露人が稱して前者の如くギリヤークと呼ぶ。

 土人の風俗習慣を列記する前に述べて置きたいのは、世上に於ける人類云々に就き北部土人を別としてアイヌ民族に關しては、東西專門家の旣に硏究の步を進められつゝあるを以て、是を專門大家に一任してをき、玆に著者の傳聞せし事とアイヌ故老の傳說とを記するも、何れ確信出來ざる說なれ共二三列記し讀者諸賢の硏究に供するのである。

(一)傳說アイヌ語

 フシコオホタ(太古に於て)テエコロ(非常に)イラマシレアン(美しき事)ポンモロマツポ(小女が)アトイオロワ(海より)モヌーワ(漂流して)タンモシリ(此の島に)オホタニヤンマヌイ(漂流した)ネーテ(夫れから)ナーケネインカラヤハカ(何處を見ても)アイヌクリカイキ(人影も)イシヤン(無い)ネアンベクシユ(其故に)マサラカータ(海岸の高い處に)ヤヨチエアンテオカヤン(橫になつて寢て居た)タニボカシノ(間もなく)モサンテ(目がさめて)インカラアナーコ(見た處が)テタラセタシネヘ(白い犬一匹)、タアタアン(其處に居た)ヘンパハート(數日を)アンチ